2026/6/18

2026年、マンションの大規模修繕をめぐるニュースが相次いでいる。原油から精製される「ナフサ」の不足を背景に、塗料・防水材といった石油由来の建築資材が高騰・供給不安に陥る「ナフサショック」が起き、工期の遅延が全国の約6割の施工会社で発生したとの調査も報じられた。背景に共通するのは、物価高騰のなかで「修繕費の前提」が崩れているという構造だ。
なかでも深刻なのは、総会で正式に承認された工事ですら発注できず、凍結・延期に追い込まれる事態である。計画を立て、住民が合意し、積立てを続けてきたマンションでも起きている。なぜ、決まったはずの工事が止まるのか。鍵は「修繕積立金」という仕組みにある。
分譲マンションの維持は、長期修繕計画と修繕積立金に支えられている。これは十数年先までの工事と費用を見積もり、毎月いくら積み立てるかを決めた設計図だ。
問題は、この設計図が計画時点の物価水準を前提にしている点だ。積立金は自動では増えず、増額にはその都度、総会の合意が要る。値上げを歓迎する住民は少なく、合意は容易ではない。結果、多くの積立計画は過去の単価に縛られたまま高騰に追いつけずにいる。国の調査でも積立金が不足するマンションは全体の3分の1を超えた。怠慢ではなく、制度に起因する構造的な資金不足である。
そこにインフレ、資材高騰、人手不足が重なった。1戸あたりの修繕費はこの十数年で約1.6倍に上昇したとされる。工事費の2〜3割を占める足場費用は人件費に直結し、労務単価の上昇が総額を押し上げる。
こうして計画時の見積もりと実費が乖離する。承認済みの工事でも、数百万円単位の値上げを求められれば積立金では賄えず、発注を見送らざるを得ない。延期すれば建物の劣化は進み、次回の工事費はさらに膨らむ。先送りは解決ではなく、コストの繰り延べにすぎない。
見落とされやすいのが、この問題が建物の安全性に直結する点だ。マンション居住者の多い都市部では、災害時に住民が自宅にとどまる「在宅避難」が防災計画の前提に組み込まれている。避難所の収容力に限りがあるためだ。
その在宅避難が成立する大前提は、建物そのものが健全であることだ。修繕積立金の不足は、家計や資産価値の問題にとどまらず、まちの防災戦略の土台を静かに侵食していく。
物価高騰下で修繕をどう持続させるか。これは管理組合だけで抱えきれる課題ではなく、行政による独自助成など具体的な支援が問われている。修繕の停滞が在宅避難の前提をどう揺るがし、自治体に何が求められるのか――その詳細は本家ブログで論じている。
▶ より詳細な分析・自治体への提言は本家ブログで 「物価高騰でマンションの大規模修繕が止まる ―日本一のマンションのまち江東区と『在宅避難』」
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