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川越市は「観光」にどこまで税金を使うべきか? クールジャパン機構の赤字540億円から考える

2026/7/2

クールジャパン機構の累積赤字が、改めて大きな議論になっています。

報道によると、日本の食やアニメなどを海外展開することを目的に2013年に設立された官民ファンド「クールジャパン機構」は、2025年度決算で累積損益が540億円の赤字となり、経済産業省は統廃合も含めた検討に入る方針とされています。

もちろん、日本のアニメ、食、伝統文化、観光資源そのものに価値がないわけではありません。むしろ、日本には世界に誇れる魅力がたくさんあります。

問題は、そこに行政がどのように関わるべきなのか。
そして、税金を使う以上、本当に効果があったのかを検証してきたのか、という点です。

私はこのニュースを見て、国の話だけではなく、川越市政にも通じる重要な論点だと感じました。

 

行政がやるべきこと、民間に任せるべきこと

私は基本的に、行政はできるだけ役割を絞るべきだと考えています。

いわゆる「小さな政府」の考え方です。

行政が重点的に担うべきなのは、防衛、治安維持、基礎的なインフラ整備、災害対策、子育て・福祉のセーフティネットなど、市民生活の土台に関わる分野です。

一方で、商品を売る、飲食を提供する、観光客向けの体験をつくる、イベントを企画する、といった分野は、本来は民間の創意工夫が最も力を発揮しやすい領域です。

行政がそこに深く入り込みすぎると、民間の競争や工夫を弱めてしまう可能性があります。

クールジャパン機構の問題は、まさにその境界線を考える材料だと思います。

「日本文化を海外に広げる」という目的は良い。
しかし、目的が良いからといって、行政主導のファンドや事業が必ずうまくいくわけではない。
ここを冷静に反省する必要があります。

 

では、川越市ではどうか

川越は「小江戸川越」と呼ばれる、関東でも有数の観光地です。

蔵造りの町並み、時の鐘、川越まつり、菓子屋横丁、寺社仏閣、地元の食文化。
これらは川越市にとって非常に重要な地域資源です。

この価値を守ることは、川越のブランド力を守ることでもあります。
観光は地域経済にも関わりますし、市民が誇りを持てるまちづくりにもつながります。

だからこそ、私は「観光支援は全部無駄だ」と言いたいわけではありません。

ただし、観光という言葉がついた瞬間に、何でも行政がお金を出してよい、という話にはならないと思います。

 

小江戸蔵里のデータを見る

川越市産業観光館 小江戸蔵里

具体例として、川越市産業観光館、いわゆる小江戸蔵里があります。

川越市の説明では、小江戸蔵里は約120年の歴史を持つ酒蔵を改装した施設で、川越ブランド産品、埼玉県内32蔵の日本酒、地場食材を生かした料理などを発信する施設とされています。所在地は新富町1丁目10番地1、指定管理者は株式会社まちづくり川越です。

また、株式会社まちづくり川越は、川越市産業観光館の指定管理事業、観光案内所運営事業、中心市街地活性化事業などを行っており、川越市から500万円の出資を受けていることも市の監査資料で確認できます。
国土交通省の資料でも、資本金3,500万円のうち川越市の出資割合は14%、川越商工会議所は7%とされています。

つまり、小江戸蔵里は単なる民間施設ではなく、行政と関わりの深い観光施設です。

では、その収支はどうなっているのでしょうか。

川越市の施設カルテによると、小江戸蔵里の令和6年度の利用者数は292,148人。一方で、支出合計は1億4,058万7千円、収入合計は9,201万2千円、収支はマイナス4,857万5千円となっています。利用者1人あたりの支出は481円です。

過去3年で見ると、収支は以下の通りです。

施設カルテでは、支出の大部分が外部委託料であり、令和6年度の外部委託料は1億3,911万7千円と読み取れます。

もちろん、歴史的建造物の保存や、観光客と市民の交流拠点としての役割には公共性があります。
しかし、毎年数千万円規模の赤字を税金で支え続けることが、本当に今後も必要なのか。
ここは真正面から議論すべきです。

 

もともとは独立採算だった

重要なのは、小江戸蔵里の指定管理は、最初から現在のように指定管理料ありきだったわけではないという点です。

川越市の指定管理者募集要項では、小江戸蔵里は開設当初から独立採算制で管理運営していたものの、新型コロナウイルス感染症や社会経済情勢の影響を考慮し、令和2年度から指定管理料を導入したと説明されています。

コロナ禍という非常時に行政支援を行うことは理解できます。
しかし、非常時に導入した仕組みが、そのまま恒久化していないか。
ここは確認が必要です。

さらに、現在の指定管理者は令和6年4月1日から令和16年3月31日までの10年間、株式会社まちづくり川越に指定されていますが、応募者は1者のみでした。

観光施設としての運営に、もっと民間のアイデアや競争原理を入れる余地はなかったのか。
そこも検証すべき論点です。

 

川越市の財政は、余裕があるわけではない

「観光地だから多少の赤字は仕方ない」という考え方もあります。

しかし、川越市全体の財政を見ると、決して余裕がある状況ではありません。

令和7年度の川越市一般会計予算は1,369億7千万円で、過去最大規模となっています。民生費は624億円、教育費は171億円、土木費は104億円など、市民生活に直結する分野にも大きなお金が必要です。

さらに、公共施設の老朽化も大きな課題です。川越市の広報では、建設後40年以上が経過し、大規模改修や更新の検討が必要な施設が令和6年度末時点で全体の約58%に及ぶとされています。今後30年間の公共施設の経費は総額約4,473億円、年平均約149億円と試算され、毎年約23億円不足する見通しです。

この状況で、観光施設の赤字をどこまで公費で支えるのか。

これは単に小江戸蔵里だけの話ではありません。
川越市が今後、どこまで行政サービスを広げるのか。
そして、どこから民間に任せるのか。
市政全体の優先順位の問題です。

 

行政が観光でやるべきことは何か

私は、川越市が観光に関わること自体を否定しているわけではありません。

行政がやるべき観光政策はあります。

たとえば、歴史的景観の保全、道路・歩道・トイレ・案内表示の整備、交通渋滞対策、オーバーツーリズム対策、防災・防犯、文化財の保護などです。

実際、令和7年度予算でも、川越市はオーバーツーリズム対策として521万7千円を計上し、AR体験型コンテンツやデジタルマップを活用して観光客の分散化や回遊性向上を図るとしています。

また、川越まつりについても、ユネスコ無形文化遺産に登録されている「川越氷川祭の山車行事」を保存し、全市的なまつりに発展させる目的で、令和7年度に9,256万6千円が計上されています。

こうした文化財保護や混雑対策、基礎インフラ整備は、民間だけでは担いにくい公共性があります。

一方で、物販、飲食、イベント、プロモーション、観光コンテンツづくりについては、民間の自由な活動にもっと任せるべきではないでしょうか。

 

クールジャパンの失敗を、川越市政の教訓に

クールジャパン機構の赤字問題から学ぶべきことは、文化や観光の価値を否定することではありません。

むしろ逆です。

価値あるものだからこそ、行政が雑にお金を入れてはいけない。
目的が良くても、仕組みが悪ければ失敗する。
税金を使うなら、成果を検証し、撤退や見直しのルールを持つべきです。

川越市でも、観光は重要です。
小江戸川越というブランドは、守り、育てていくべき資源です。

しかし、だからこそ私は、観光関連事業にも恐れずに議論のメスを入れていきたいと思います。

税金で支えるべき領域なのか。
民間に任せるべき領域なのか。
市民にとって本当に必要な支出なのか。
将来世代に説明できるお金の使い方なのか。

川越市の魅力を守りながら、行政の役割を適切に絞る。
その視点で、これからも市政を見ていきたいと思います。

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著者

徳宮 勇気

徳宮 勇気

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肩書 フリーランス / 自衛隊支援協会理事長
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