2026/7/15
前稿【前編】では、山口県下関市立中央図書館が指定管理者制度から再び直営に戻すという、全国的にも珍しい経緯をたどった経過をご紹介しました。
[前編はこちら👉http://blog.livedoor.jp/ash_ashida1185/archives/31284875.html
前編でも述べた通り、同館は「導入して、戻した」という貴重な経験をお持ちです。ただ、視察の目的は「事例を知ること」ではなく、倉敷市の今後の図書館運営に活かすことです。本稿【後編】では、視察を踏まえての私自身の所感と、倉敷市への示唆を率直にご報告いたします。
本稿もAIによる整理をベースに、現地で伺った内容と視察後の自分の考察を加えて再構成しています。
5.所感
1)「民営化の失敗」なのか、「発注側マネジメントの失敗」なのか
まず率直に申し上げると、下関市立中央図書館のケースは、「図書館運営は直営と指定管理者のどちらが適切か?」という本質論よりも、「知見や実績のない事業者へ委託を決定してしまったマネジメントの失敗事例」として理解すべきだと感じました。
前編でご紹介した通り、同館の指定管理者制度は、「民間の図書館運営ノウハウに期待して積極的に導入した」というより、DREAM SHIP全体の「施設管理」に付随して決定された印象が強いものでした。図書館運営の実績を評価軸として指定管理者を選んだというより、建物全体の管理者に図書館運営も「ついでに」任せたという構図に見えます。
つまり問題は、「民間に任せたこと」そのものではなく、 ①どのような図書館にしたいのかの定義が曖昧なまま、 ②要求水準書や業務仕様の作り込みが不足したまま(一層の確認が必要かもしれませんが)、 ③図書館運営の知見や実績を持たない事業者に委託した、 という発注側のプロセスの脆弱さにあったのではないか、というのが私の見立てです。
翌日訪問した伊万里市民図書館では、館長が「直営こそが正しい」という信念を熱く主張されていたのが印象的でしたが、下関市立中央図書館では、直営/指定管理の本質論には触れられず、試行錯誤の過程を淡々と説明されるのみでした。この対比自体が、示唆的だったように思います。
(「DREAM SHIP」は中央公民館・婦人会館・文化会館を統合・複合化して整備されたもの。
おなじ建物に図書館とは異なる施設がの混在👇)
館長のご説明の中で、印象に残った言葉があります。
「近年は、(図書館は)レファレンスや、地域学習の拠点としての機能を求められるなど、変化があり…」
これは非常に重要な指摘です。裏を返せば、指定管理者制度導入当時は、図書館の価値を「貸本」や「書籍閲覧場所の提供」といった、比較的限定した機能として捉えていた可能性があるということです。
そうなると、指定管理者に対して設定されるKPI(評価指標)も、貸出冊数や開館時間といった「数値化しやすいもの」が中心となります。しかし、レファレンス機能や地域学習拠点としての価値は、こうした単純な数値では測れません。
同館の指定管理者制度時代の迷走は、単なる「民営化の失敗」ではなく、「図書館に求められる機能そのものが変化している時代の、試行錯誤の過程」であった、という側面も見逃してはならないと感じました。
また、伊万里市民図書館のレポートでも指摘した通り、AIの普及で知の探究の方法論は大きく変わりつつあります。これから作る図書館は、そこから目をそらして機能を議論するわけにはいかないでしょう。忘れてはならない点として指摘させていただきます。
3)札幌市図書・情報館のケース ― 「直営」より「目的の明確化」が本質
運営形態の議論を考える上で、私が過去に視察した札幌市図書・情報館の事例も参考になります。
https://www.sapporo-community-plaza.jp/library.html
同館は、「WORK・LIFE・ART」に特化した課題解決型図書館として、ビジネス分野にも通じた司書による情報提供とレファレンスに力を入れています。貸出は行わず、その場での課題解決に特化するという、大胆なコンセプトを打ち出しています。図書十進分類法も採用せず、独自の書棚構成で利用者の関心に強くアピールする工夫もあります。
同館は直営ですが、重要なのは「運営主体の名称(直営か指定管理か)」ではなく、「図書館の目的を明確にし、それを実現できる人材・組織・評価制度を用意している」という点です。
公営図書館といえども、機能の設定は自由であり、その練り込みに時間をかけることこそが本質だと、改めて感じさせられます。
4)経費の推移からは、結論は導き出せない
「指定管理者制度により経費が減るはずが、逆に高くついた」という見方も一部にはあります。しかし、公開されている決算情報は限定的で、厳密に検証するには不十分です。
「民営化→再直営化」と変化した経費推移を見るだけでは、「本質的に民営化が向かない」との判断をするには材料が足りない、というのが正直な結論です。数値の背後にあるサービス品質や機能設定の変化まで含めて評価しなければ、真の判断はできません。
(司書さんが待つレファレンスコーナー)
6.倉敷市への示唆 ― 「発注する側」の力量を高める
以上を踏まえ、倉敷市の新中央図書館整備に向けた示唆を整理いたします。
・「直営か指定管理者か」の二項対立に陥らないこと。本質は運営形態ではなく、図書館の目的定義と、それを実現する体制設計にある。
・仮に指定管理者制度を採用するのであれば、要求水準書・業務仕様書の作り込み、そして業者選定における評価の力量が決定的に重要となる。下関市のケースは、この準備不足が失敗の一因となった可能性が高い。
・KPIの設計において、貸出冊数や開館時間といった数値化しやすい指標だけでなく、レファレンス機能、地域学習拠点機能、市民の課題解決への貢献など、図書館の本質的価値を反映できる指標を組み込む必要がある。
・地域資料の継承や司書の育成といった、「長い時間軸」を必要とする機能については、5年程度で契約が区切られる指定管理者制度は本質的に苦手な領域である。直営とのハイブリッド運用や、契約設計上の工夫が必要となる。
7.まとめ ― 「戻せた」勇気に学ぶ
前編・後編を通じての結論として、改めて申し上げたいのは、下関市のケースは「一度導入した制度を、勇気を持って見直し、戻した」貴重な事例であるということです。
多くの自治体では、一度決めた制度をなかなか見直せません。しかし下関市は、現場で起きている問題を直視し、原初の構想に立ち返るという判断をされました。この点は率直に評価されるべきだと思います。
同時に、この事例が示すのは、「制度そのものの善悪」よりも「発注する側の力量」がいかに重要かということです。倉敷市が新中央図書館の整備を進めるにあたっては、運営形態の議論に先立って、「どのような図書館を目指すのか」の徹底した練り込みが必要であると、強く感じました。
今回下関市で伺った知見を、伊万里市民図書館の事例と併せて、倉敷市議会の場でもしっかり活かしてまいります。
最後になりましたが、ご多忙の中、丁寧にご対応くださった下関市立中央図書館の﨑野美也子館長、大石敦磨副館長、水戸麻規子館長補佐に、心より御礼申し上げます。
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