2026/6/9
企業の将来性や技術力、ブランド力といった「目に見えない価値」を担保に、金融機関が融資を行う新たな制度「企業価値担保権」が5月25日からスタートした。不動産のような有形資産に乏しい新興企業(スタートアップ)や中小企業の資金調達を容易にし、成長を後押しする狙いがある。長年続いた日本の融資慣行を変える新制度の概要や背景を解説する。

新たな制度は、2024年に成立した「事業性融資推進法」に基づくもので、特許などの知的財産や顧客基盤、ノウハウといった無形資産を含む事業全体を担保として認める。めざすのは、不動産担保や経営者の個人保証に依存した従来の融資手法からの転換だ。
具体的には、企業が国から認定を受けた銀行などの信託会社と契約を結び、事業全体を担保に設定。それに基づき金融機関から融資を受ける。万が一、返済ができなくなった場合は、事業を一体として売却し、その対価から金融機関が優先的に資金を回収する仕組みだ。
新制度で最も恩恵を受けるとされるのが、創業から間もないスタートアップや、優れた技術を持つ中小企業だ。
これまで企業が融資を受ける際は、土地・建物などの有形資産や、経営者個人が連帯保証人となる「経営者保証」が求められるのが一般的だった。しかし、資産の乏しいスタートアップは担保を設定できないために資金調達に苦労するケースが多かった。新制度では、過去の財務データだけでなく、事業計画や将来性などが評価対象となるため、より多くの資金調達が可能になる。
同時に、この制度を活用する場合、経営者保証の利用は原則として制限される。経営者は個人資産を失うリスクを負わずに思い切った挑戦ができるようになり、後継者不足に悩む中小企業の「事業承継」のハードルを下げる効果も期待されている。
■求められる貸し手の「目利き力」
普及に向けた課題は、目に見えない企業価値をどう評価するかだ。融資する金融機関側には、企業の成長性や強みを見抜く「目利き力」がこれまで以上に求められる。
制度のスタート前から銀行業界では、勉強会の開催など具体的な準備が進められており、既に新制度を活用した融資の動きもあるようだ。
国は、金融機関の目利き人材を育成するため、助言や指導を行う「認定事業性融資推進支援機関」制度を導入し、バックアップ体制を整える方針だ。金融機関には、単なる資金の貸し手にとどまらず、企業の課題に共に寄り添い続ける「伴走型支援」の姿勢が期待されている。
米国など海外では、企業価値を担保にした借り入れが多く行われている。そもそも、なぜ日本で不動産担保や経営者保証に依存する融資慣行が根付いたのか。
かつての日本では「土地の価値は下がらない」という土地神話の下、不動産を担保に取れば安全・確実に資金を回収できたため、これが金融機関にとって最も効率的な融資手法とされてきた。
しかし、1990年代初頭のバブル崩壊を境に、それまで高騰を続けていた地価は一転して急落。担保に取っていた土地の価値が融資額を下回る「担保割れ」が続出し、金融機関は多額の不良債権を抱え込むことになった。さらに90年代中盤になると、金融機関の経営悪化が深刻化し、企業への「貸し渋り」も社会問題になった。
この教訓から、日本の金融業界は経営リスクを取る融資に慎重になり、確実な有形担保や経営者保証に頼る姿勢が長年続いているといわれている。
■公明、早期創設を推進
優れた技術やアイデアを持ちながらも資金難に直面する中小企業などを一貫して支え続けてきたのが公明党だ。
公明党は2023年に取りまとめた「中小企業等の賃上げ応援トータルプラン」の中で、経営者保証に依存しない新たな融資慣行を確立するため、事業者の知的財産や無形資産を含む「事業全体」を対象とした担保制度を早期に創設するよう政府に強く提言していた。
さらに国会審議においても、金融機関側が事業全体の価値を適切に評価する「目利き力」を向上させられるよう、国による専門的な支援体制の構築を求めていた。
新制度によって、新たなビジネスや技術を生み出すスタートアップや中小企業が資金調達しやすい環境を整えることは、日本経済の底上げにもつながる。
公明新聞2026年6月8日付け
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セ ノブヒロ/53歳/男
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